MADRE INES 聖パウロのような『宣教者のシンボル』

聖パウロの神秘性は、キリスト教初期から現代に至るその歴史の中で教多くの人々に霊感を与える泉となった。自分の宣教家族の中に聖パウロの精神性を浸透させたいと願っていた御聖体のマドレ・イネス・テレサの霊性においても同じであった。

キリストに心酔し、自分への神からの計画に忠実な使徒は、「わたしを愛し、私のために身をささげられた方（Gal 2,20）」をみいだしたのである。「キリストの愛がわたしを虜にし（２Cor5，14）」、「キリストが速やかに統治されますように（１Cor15,25）」は、マドレ・イネスが自身の設立した宣教家族のために編案した標である。聖パウロとマドレ・イネスの思いを自分のものにすれば、キリストの聖心の鼓動（思い）を感じとることができる。だから、マドレ・イネスにみられるパウロの教義は、「私たちの希望であるキリスト（１Tim1,1）を生き、宣教するための援けとなるであろう。なぜならば、教皇ベネディクト16世が、その第2の回勅のなかで書いておられるように、「私たちは希望によって救われた（Rom8,24）」からである。私たちと時代を共有するマドレ・イネスは、絶えず聖霊に導かれた活動的な女性であり、単純さと深みを併せ持ち、そして、神のみ言葉の光、特に教会に活力を提供した異邦人の偉大なる使徒の宣教・霊的活動による秘儀に照らされて、彼女自身の手紙の中で、パウロの書簡を直接読むことで、聖パウロのように自身の貧しさを体験した者だけが「キリストの愛は人智を超える（Ef3，19）」ことを悟ることができる、と私たちに宣言するのである。

聖櫃の前で、あるいは心の静けさのうちに、愛である神を再発見する驚きと、霊の命によって生まれかわることを、どうして試してみないのですか。マドレ・イネスは私たちに書き送ります、「使徒聖パウロは、偉大な書簡を通して、聖なる者としてその使命を遂行できるよう、宣教魂を奮い立たせるすばらしい文書の数々を、私たちに提供しています。」と。

聖パウロの教義では、キリストにおいての理想的生き方を私たちに示しているので、その要求することは大きいです。マドレ・イネスに倣って、聖パウロのように「生きているのはもはや私ではなく、キリストこそ私のうちにいきておられる。（Gal2,20）」と言えるよう、聖パウロに波長を合わせて生きようではありませんか。

マドレ・イネスに見られる聖パウロの宣教の歩み

使徒職に於いて、「宣教クララ会員の一人一人は、私たちが係わる人々に対して、彼らが私たちの中に模倣できるような手本を見出し、さらに聖パウロに倣って《私を見倣いなさい。私もキリストを見倣っているのですから（１Co11，1）》と確信を持って言えるような模範を示す必要がある。」

愛徳は聖性に至るための手段であり、その愛なしには、どんなすばらしく活動しても、聖パウロの言葉によれば「鳴るどら（1Co13,1）。」である。

マドレ・イネス「疲れを知らない宣教者」

マドレ・イネスの創立者としての30年の生涯をたどってみると、それは疲れを知らない宣教者であったことに気づく。私たちの時代に生きた聖パウロとして、教会の必要に気を配り、各地に創立されていく宣教地の娘たち一人一人をおもいやった。

マドレ・イネスは、44回旅行し、その内訳は19回の国内と25回の国外であり、92か国を訪問した。彼女は、疲れるということを気にせず、ただ一つの望みは、何にも勝って福音を宣べ伝えることであった。1980年に行われた最後の《母としての訪問》は、スペイン、メキシコ（ここでは、転んだことによってかなり健康を害した。）、カリフォリニア、日本、そしてインドネシアを廻って1980年10月にローマへ戻り、聖パウロのように約束された冠を受けるために天の父への旅立ちの日まで（1981年7月22日）そこに留まった。

「この後、私のために用意されているのは、義の冠だけです。正しい審判者である主が、かの日に、この冠を私に授けてくださるのです。私ばかりではなく、主の出現を心から待ち望む人には、だれにでもこれを授けてくださいます。」（2Tim4,8）

マドレ・イネスにとって宣教者の召命は、その人格の奥深くに刻まれた確信であった。“Oportet Illum Regnare”（神は速やかに治められますように）この聖パウロの表現をもって（１Cor15,25）、マドレ・イネスは、自分の個人的経験による使徒的宣教を現している。「この世での目に見える形でのキリストの使命はもう終わりました。キリストは、その行程を走り終え、今は世紀の終わるときまで聖体の内に留まられ、キリストが始められた仕事を続けるためにあなたを選ばれました。それはキリストの苦しみの欠けているところを、キリストの体のために補うためです。キリストの体とは教会です。」